腰痛予防に大切なのは「腹筋の強さ」だけではない|内腹斜筋と腹横筋の機能性を高める意味
腰痛予防と聞くと、「腹筋を鍛えればよい」と考える方も多いかもしれません。
もちろん腹筋の筋力は大切です。しかし、腰を守るうえでは、ただ強くするだけではなく、必要なタイミングで、必要な分だけ働く機能性が重要だと考えられています。
特に大切になるのが、体の深い部分にある腹横筋と内腹斜筋です。

これらの筋肉は、腰を大きく動かすための筋肉というよりも、姿勢を保つ、呼吸と連動する、手足を動かす前に体幹を安定させる、といった役割に関わります。1,2
腰痛は世界的にも多くの人が経験する症状であり、WHOは腰痛を世界的な障害の主要原因の一つとして位置づけています。3
そのため、腰痛を「痛くなってから対処するもの」だけでなく、日頃から体の使い方を整えて予防していく視点が大切だと感じています。
腹横筋とは?
腹横筋は、お腹の深いところにある筋肉です。
名前の通り、筋線維が横方向に走っており、体幹をぐるっと包むように働きます。
イメージとしては、腰まわりを内側から支える天然のコルセットのような存在です。
腹横筋がうまく働くことで、腹部の圧が保たれ、腰椎の安定に関わると考えられています。1,4
ただし、ここで大切なのは「お腹を強く固め続けること」ではありません。
必要なときに自然に働き、呼吸や姿勢、手足の動きと連動できることが重要です。
内腹斜筋とは?
内腹斜筋は、腹横筋より少し浅い層にある筋肉です。
体幹をひねる動きや横に倒す動きにも関わりますが、腹横筋と協調して、腹部を支えたり、体幹を安定させたりする働きにも関わります。2
歩く、立ち上がる、物を持つ、片足で立つ。
こうした日常動作では、腰だけでなく、胸郭・骨盤・股関節・足部までが連動しています。
内腹斜筋は、その連動の中で体幹を支える重要な筋肉の一つと考えると、イメージしやすいかもしれません。
腰痛予防では「筋力」よりも「機能性」が大切
腰痛予防のために大切なのは、腹横筋や内腹斜筋を単純に強くすることだけではありません。
重要なのは、次のような機能です。
- 呼吸と一緒に自然に働くこと
- 手足を動かす前に体幹を安定させること
- 腰を反りすぎたり丸めすぎたりせず、適度な位置を保てること
- 力を入れるだけでなく、必要に応じて抜けること
- 歩行やスクワットなど、実際の動作の中で使えること
過去の研究では、腰痛のある人では腹横筋の反応が遅れる可能性が報告されています。5,6
これは「腹横筋だけを鍛えれば腰痛が必ず改善する」という意味ではありません。
しかし、腰痛予防や再発予防を考えるうえで、体幹深層筋の働き方を整えることは、一つの重要な視点になると考えられます。
「お腹を固める」だけでは不十分
腰を守ろうとして、お腹に力を入れ続けてしまう方もいます。
しかし、常に強く固めるだけでは、呼吸が浅くなったり、肋骨や骨盤の動きが悪くなったりすることがあります。
腹横筋や内腹斜筋の機能性を高めるためには、強い力を出す前に、まずは低い力で丁寧にコントロールすることが大切です。
たとえば、仰向けでゆっくり息を吐きながら、下腹部が軽く引き込まれる感覚を確認します。
そのうえで、手足を小さく動かしても腰が過剰に反らないようにします。
このような練習から始めると、深層筋を「使える状態」に近づけやすくなります。
慢性腰痛に対する運動療法や体幹のモーターコントロール運動は、痛みや機能の改善に役立つ可能性が報告されています。7,8
ただし、どの運動が最も優れているかについては一貫した結論があるわけではなく、個人の状態に合わせて選ぶことが大切です。7
自宅でもできる基本の意識
最初に意識したいのは、強いトレーニングではなく、呼吸と体幹のつながりです。

まず、仰向けになり、膝を立てます。
鼻から息を吸い、口からゆっくり息を吐きます。
吐くときに、肋骨が軽く下がり、下腹部がやさしく薄くなる感覚を確認します。
このとき、お腹を強くへこませすぎたり、腰を床に強く押しつけたりする必要はありません。
あくまで、腰まわりが静かに安定する感覚を探していきます。
慣れてきたら、片足を少し持ち上げる、踵をゆっくり滑らせる、片腕を上げるなど、手足の動きを加えていきます。
手足を動かしても腰が大きく反ったり、骨盤が左右に揺れたりしないようにすることで、深層筋の機能性を高める練習になります。
ONE STEPで大切にしたいこと
ONE STEPでは、腰痛予防を「腹筋を鍛えること」だけで考えるのではなく、呼吸・姿勢・体幹・股関節・歩行まで含めて見ていくことを大切にしています。
マシントレーニングでは、この二つを丁寧に行っていくことを推奨しています。

腹横筋や内腹斜筋は、体の中心を支える大切な筋肉です。
しかし、それだけで体が守られるわけではありません。
大切なのは、深層筋が呼吸や姿勢と連動し、日常生活の中で自然に働くことです。
その積み重ねが、腰への負担を減らし、動きやすい体づくりにつながっていく可能性があります。
腰痛を予防するためには、強い運動をいきなり始めるよりも、まずは自分の体がどのように動いているのかを知ることが大切です。
小さな一歩を丁寧に積み重ねることが、体を守る大きな力になるかもしれません。
注意していただきたいこと
腰痛の原因は一つではありません。
筋力低下だけでなく、生活習慣、睡眠、ストレス、仕事環境、過去のけが、神経症状など、さまざまな要因が関係します。3
また、両脚のしびれや筋力低下、排尿・排便の異常、会陰部の感覚低下、強い外傷後の痛み、発熱を伴う痛みなどがある場合は、運動で様子を見るのではなく、医療機関への相談が必要です。9
運動は大切ですが、「痛みを我慢して続けること」が正解ではありません。
自分の体の反応を確認しながら、無理のない範囲で進めていくことが大切です。
まとめ
内腹斜筋と腹横筋は、腰を内側から支える大切な筋肉です。
しかし、腰痛予防で本当に大切なのは、これらの筋肉をただ強くすることではなく、呼吸や姿勢、手足の動きと連動して働けるようにすることです。
腰を守るためには、強さだけでなく、タイミング、協調性、安定性、そして日常動作の中で使える機能性が必要です。
腹横筋と内腹斜筋の働きを高めることは、腰痛予防の一つの手段として役立つ可能性があります。
まずは呼吸を整え、無理のない小さな運動から始めてみることが大切だと感じています。
参考文献・引用文献
- Stokes IAF, Gardner-Morse MG, Henry SM. Abdominal muscle activation increases lumbar spinal stability: analysis of contributions of different muscle groups. Clin Biomech. 2011;26(8):797-803.
- Seeras K, Qasawa RN, Prakash S. Anatomy, Abdomen and Pelvis: Anterolateral Abdominal Wall. StatPearls. 2023.
- World Health Organization. Low back pain. 2023.
- Stokes IAF, Gardner-Morse MG, Henry SM. Intra-abdominal pressure and abdominal wall muscular function. Spine. 2010;35(11):E447-E453.
- Hodges PW, Richardson CA. Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain. A motor control evaluation of transversus abdominis. Spine. 1996;21(22):2640-2650.
- Hodges PW, Richardson CA. Delayed postural contraction of transversus abdominis in low back pain associated with movement of the lower limb. J Spinal Disord. 1998;11(1):46-56.
- Saragiotto BT, Maher CG, Yamato TP, Costa LOP, Costa LCM, Ostelo RWJG, et al. Motor control exercise for chronic non-specific low-back pain. Cochrane Database Syst Rev. 2016;2016(1):CD012004.
- Saragiotto BT, Maher CG, Yamato TP, et al. Motor Control Exercise for Nonspecific Low Back Pain: A Cochrane Review. Spine. 2016;41(16):1284-1295.
- National Institute for Health and Care Excellence. Low back pain and sciatica in over 16s: assessment and management. NICE guideline NG59. 2016.
