下肢のケガ後、スプリント復帰は「なんとなく」ではなく段階的に
サッカーやバスケットボール、陸上競技などでは、ただ長く走れるだけでなく、短い距離を素早く走る「スプリント能力」が必要になります。
一方で、肉離れ、足関節捻挫、膝のケガなどの後に、いきなり全力疾走へ戻してしまうと、再発や違和感につながる可能性があります。
今回紹介する論文は、Lorenzらによる「Criteria-Based Return to Sprinting Progression Following Lower Extremity Injury」です。下肢のケガ後に、ジョギングからスプリントへ戻るための段階的な進め方を提案した論文です。1
この論文で大切にされている考え方
この論文のポイントは、スプリント復帰を「痛みがなくなったからOK」と単純に判断しないことです。
著者らは、下肢のケガから競技へ戻る終盤のリハビリでは、スプリント動作に対して段階的なプログラムが必要だと述べています。1
特に重要なのは、以下のような視点です。
- 痛みや腫れが落ち着いているか
- ジョギングで症状が出ないか
- 筋力や機能の左右差が大きすぎないか
- スピードを上げてもフォームが崩れないか
- 翌日に痛みや張りが強くならないか
つまり、スプリント復帰は「気合いで戻す」のではなく、身体の状態を確認しながら段階的に進めることが大切だといえそうです。
プログラムは3段階に分けられている
この論文では、スプリント復帰を大きく3つの段階に分けています。1

Stage 1:50%強度
最初の段階は、最大スピードの約50%程度で走るステージです。
目的は、有酸素的な土台づくりや、スプリント前の身体の慣らしです。運動と休息の比率は「1:3」とされています。1
この段階では、スピードを出すことよりも、走るフォームを崩さず、痛みや不安感なく走れるかを確認することが大切です。
Stage 2:75%強度
次の段階では、強度を約75%へ上げていきます。
目的は、スピードの発達、フォームの改善、反復スプリント能力の準備です。運動と休息の比率は「1:5」とされています。1
この段階では、単に速く走るだけでなく、加速時の姿勢、接地の安定性、左右差、疲れてきた時のフォーム変化を確認したいところです。
Stage 3:90〜100%強度
最後の段階では、90〜100%の高強度スプリントへ進みます。
目的は、最大努力に近いスプリントへ戻すことです。運動と休息の比率は「1:7」とされ、後半のステップでは競技特性に近い休息設定を考慮することも示されています。1
サッカーで考えると、単純な直線スプリントだけでなく、加速、減速、方向転換、再加速といった要素も必要になります。そのため、最終的には競技特性に合わせた練習へつなげていく必要があります。
実際には、2日ごとに段階的にステップアップしていく形が無難だと思います。

ONE STEPとして大切にしたい視点
ONE STEPでは、ケガからの復帰において「できる・できない」だけでなく、「どの強度なら安定してできるか」を大切にしたいと考えています。
たとえば、ジョギングができるようになったとしても、それはスプリントが安全にできることを意味するわけではありません。
スプリントでは、短い時間で大きな力を出す必要があります。特に太もも裏のハムストリングス、ふくらはぎ、足関節、股関節、体幹には大きな負荷がかかります。
そのため、段階的にスピードを上げながら、身体の反応を確認していくことが大切です。
ONE STEPでのサポートでは、PRIエクササイズを通して、股関節と肩甲骨の連動性を高めるトレーニングを進めていきます。
「時間が経ったから復帰」だけでは不十分かもしれない
ACL再建後のランニング復帰に関するスコーピングレビューでは、復帰判断において、時間だけでなく、痛み、可動域、筋力、ホップテストなどの基準を組み合わせる考え方が示されています。2
また、ACL再建後の競技復帰に関する研究では、復帰時期や大腿四頭筋の左右差が再受傷リスクに関係する可能性が報告されています。3
ONE STEPでは左右片足での立ち上がりテストやInBodyでの筋肉量の左右差などをチェックしていきます。
この論文はエビデンスレベル5の clinical suggestion であり、強い研究データによって効果が証明されたプログラムというより、専門家の臨床経験や既存の知見をもとに提案された実践的な進行表です。そのため、距離や本数をそのまま全員に当てはめるのではなく、痛み・腫れ・筋力・フォーム・翌日の反応を確認しながら調整することが大切です1
しかし、「走れるようになったからすぐ全力」ではなく、強度・距離・休息・フォームを管理しながら戻すという考え方は、現場でも参考になると感じます。
実施するときの注意点
このようなスプリント復帰プログラムは、痛みや腫れが強い時期に行うものではありません。
実施前には、医師や理学療法士、トレーナーなどの専門家に相談し、現在の状態に合っているかを確認することが大切です。
特に以下に当てはまる場合は、無理にスプリントへ進まない方がよいと考えられます。
- 走ると痛みが出る
- 運動後や翌日に腫れや張りが強くなる
- 片脚で支えると不安定感がある
- ジャンプや着地で不安がある
- 走るフォームが大きく崩れる
ケガの種類や重症度、年齢、競技レベル、ポジションによっても、進め方は変わります。
まとめ
下肢のケガ後にスプリントへ戻るときは、「痛みがないから全力で走る」のではなく、段階的に強度を上げていくことが大切です。
今回紹介した論文では、50%、75%、90〜100%という3段階で、距離・本数・休息を管理しながらスプリントへ戻す考え方が示されています。1
スポーツ復帰では、焦って早く戻ることよりも、再発しにくい身体の準備を整えることが大切です。
ONE STEPでは、身体の評価、姿勢、呼吸、筋力、動きのクセを確認しながら、一人ひとりに合った運動を提案していきたいと考えています。
参考文献
- Lorenz DS, Domzalski S. (2020). Criteria-Based Return to Sprinting Progression Following Lower Extremity Injury. International Journal of Sports Physical Therapy, 15(2), 326-332.
- Rambaud AJM, Ardern CL, Thoreux P, Regnaux JP, Edouard P. (2018). Criteria for return to running after anterior cruciate ligament reconstruction: a scoping review. British Journal of Sports Medicine, 52(22), 1437-1444.
- Grindem H, Snyder-Mackler L, Moksnes H, Engebretsen L, Risberg MA. (2016). Simple decision rules can reduce reinjury risk by 84% after ACL reconstruction: the Delaware-Oslo ACL cohort study. British Journal of Sports Medicine, 50(13), 804-808.
